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あらすじ
各話サブタイトル、スタッフ、キャスト(クレジット順)とかんたんなあらすじ(エピソードガイド)、そして蛇足な解説ありです。

第1回
第1回 伊賀者上洛(いがものじょうらく) >>年表
慶長17年暮れ、天下は関ヶ原の合戦で勝利を得た徳川家のものとなりつつあった。しかし、大坂や京では今だ豊臣家が巨大な力を持っていた。その豊臣家の膝元である京の町で、徳川幕府によるキリスト教の弾圧が始まり、京都所司代によってセミナリオが次々を壊されていた。伊賀忍者・霧隠才蔵は、八瀬のかまぶろ大納言晴季の三の姫「青子」の名を騙る謎の美姫の甘い香りに魅せられる。才蔵はその美姫を求めて大納言家に忍び込むが、そこにいたのはまぎれもない公家の姫、本物の青子だった。ある夜、大納言家の門前に闇の男たちがあった。公家を味方につけようとする豊臣方と徳川方の陰謀が、今まさに大納言家に襲いかかろうとしていたのだ。そして、才蔵はその男たちをじっと見下ろし、はからずも時代の大きな渦の中に飛び込まんとしていた。
【スタッフ】 原作:司馬遼太郎「風神の門」「城塞」/脚本:金子成人 /音楽:池辺晋一郎 /演奏:東京コンサーツ /監修:御正伸 /殺陣:國井正廣 /題字:藤沢昌子 /語り:長谷川勝彦アナウンサー /主題歌「時間差」/唄:クリスタルキング /作詞:阿里そのみ /作曲:池辺晋一郎 /制作:村上慧 /技術:白石健二 /美術:冨樫直人 /効果:柏原宣一,中桐英雄 /照明:宮本省二 /音声:永井孝夫 /カメラ:曽我部宣明 /記録:久松伊織 /演出:岡本憙侑
【出演】 霧隠才蔵:三浦浩一 /お国:小野みゆき /獅子王院:磯部勉 /青子:樋口可南子 /孫八:北見治一 /菊千代:小野ヤスシ /米川監物:大塚周夫 /信乃:政岡愛子 /猿飛佐助:渡辺篤史 /治作:稲葉義男 /茶屋の女:平井真理 /吟味役:伊藤弘一 /牢人:宮琢磨 /小若:五十嵐知子 /八重:村田知嘉子 /楓:向田由美子 /書役:内堀和晴 /古着屋:中村武巳 /役人:堀口進也 /遊女:鰐石鈴子,鳥井美英子,若狭麻都佳,白浜祐子 /若駒 /鳳プロ /早川プロ /劇団ひまわり /大納言晴季:岩井半四郎 /隠岐殿:多岐川裕美 /真田幸村:竹脇無我
蛇足
初回である。まだカツラや衣裳に慣れてないカンジが初々しい。演技もぎこちないということはないが、肩に力が入ってるカンジだ。
関ヶ原の戦いで勝利した徳川家康は、江戸に幕府を開き征夷大将軍におさまる。そしてその地位をわずか2年で子の秀忠に譲り、徳川世襲制の確立を天下に知らしめた。 形式的には豊臣秀頼の命を受けて反乱軍(石田三成)を征伐したはずだった関ヶ原の戦いの後、まるで天下人のように振る舞いはじめた家康に豊臣家は警戒心を抱く。しかし家康は秀頼への千姫の輿入や右大臣への推挙など、さまざまな懐柔策で豊臣家を軟化させつつ、豊臣恩顧の大名を大坂から遠ざけるなどして、豊臣家の弱体化を謀る。
そして慶長16年(1611年)3月、家康は秀頼に上洛を求め、秀頼がこれに応じ、二条城での会見が実現した。それまで「五大老」の一人として大坂城に出向き、年少の秀頼に対して「臣下の礼」を取っていた家康が、己の居城である二条城に秀頼を出向かせたことは、両家の地位の逆転を意味した。しかし、この会見は家康を喜ばせるどころか、不安にさせた。二条城に現れた秀頼は家康の知っている庇護すべき弱々しい子どもではなく、威風堂々たる若者に成長していたのだ。老い先短い我が身を顧みた家康は、この時、豊臣家を滅ぼすことを決意した。
─その翌年の暮れ、霧隠才蔵は野望を胸に京にいた。
これは、司馬遼太郎の小説を原作に持つ、ある若い忍びを主人公に大坂の陣を描いた戦国ハードロマンだ。
このドラマの主人公・霧隠才蔵は、技は一人前だが心はまだ十分に成長していない。既に胎動しはじめた戦国最後の風雲に自ら飛び込み、そこで出会うさまざまな人々を通じて己を知っていく。愛、友情、憎悪、そして哀。多くの魅力的な脇役たちがドラマを盛り立て、才蔵の成長を促していく。
ドラマの才蔵は原作の才蔵とは随分と違う。クールでもなければニヒルでもない。謎の美姫を追いかけて公家の屋敷に忍び込んだかと思うと、遊郭で気ままに遊び、畑で大根を丸齧りする。むしろ、やんちゃな子どもだ。しかし彼には人を惹き付ける何かがある。多くの人々が彼に惹き付けられ、彼とともに乱世を駆け抜けていった。
この才蔵役に、時代劇はほぼ初めてという三浦浩一を起用した功績は大きい。ドラマ、役者、ともに成長していったのだろう。それがうまくリンクしている。斬新な演出も大袈裟なアクションもこの破天荒な若者の成長物語と符丁が合っている。才蔵がどのように乱世を駆け抜けていくのか、かなり灰汁の強い時代劇ではあるが、見続ける価値はある。
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第2回
第2回 冬の暗流(ふゆのあんりゅう) >>年表
獅子王院率いる江戸方の手から青子を取り戻しながらも、才蔵は獅子王院に自分を売り込む。一方孫八は、謎の美姫の一行を見つけ後をつけるのだが、供侍に手傷を負わされてしまう。やがて青子からの付け文で蓮台寺を訪れた才蔵の前にあの謎の美姫が現れた。その正体は、大坂・右大臣家の中臈隠岐殿。対徳川工作の隠密の長。才蔵は隠岐殿を守る猿飛佐助率いる甲賀衆に囲まれそして迫れらる「味方か、死か」。しかし隠岐殿は才蔵をあえて逃す。その才蔵に隠岐殿の侍女・お国が接近する。そして待っていた江戸方からのつなぎがきた!
【スタッフ】 原作:司馬遼太郎「風神の門」「城塞」/脚本:金子成人 /音楽:池辺晋一郎 /演奏:東京コンサーツ /監修:御正伸 /殺陣:國井正廣 /題字:藤沢昌子 /語り:長谷川勝彦アナウンサー /主題歌「時間差」/唄:クリスタルキング /作詞:阿里そのみ /作曲:池辺晋一郎 /制作:村上慧 /技術:三村三三郎 /美術:宮井市太郎 /効果:浜口淳二 /照明:高橋猛 /音声:宮下謙佐 /カメラ:飯田孟司 /記録:久松伊織 /演出:小林平八郎
【出演】 霧隠才蔵:三浦浩一 /お国:小野みゆき /獅子王院:磯部勉 /青子:樋口可南子 /孫八:北見治一 /菊千代:小野ヤスシ /徳永源兵衛:今井健二 /堺屋利兵衛:入川保則 /米川監物:大塚周夫 /信乃:政岡愛子 /萩野:折原啓子 /小若:五十嵐知子 /猿飛佐助:渡辺篤史 /治作:稲葉義男 /百舌:水森コウ太 /赤犬:井上茂 /男:田村元治 /ませがき:和泉ちぬ /:小田島隆 /:佐藤友弘 /:千葉清次郎 /楓:向田由美子 /伊賀者:加藤新二,倉本竜二,上杉昌,関本晴 /若駒 /鳳プロ /近代座 /早川プロ /八星プロ /大納言晴季:岩井半四郎 /隠岐殿:多岐川裕美 /真田幸村:竹脇無我
蛇足
「暗流」とは「表面に現れない水の流れ」「表立って現れていない不穏な動き」を意味する。大坂の陣開戦2年前の冬。伊賀者・霧隠才蔵は密やかな風雲の暗流にのって泳ぎはじめる。
才蔵は物語のキーとなる人物たちと出会う。徳川の忍び・獅子王院、大坂城の中臈・隠岐殿、豊臣の忍び・猿飛佐助、そしてお国。豊臣・徳川の影の戦さを司る者たち。そして水底で静かに渦を巻くその流れの中心に、大納言晴季の姫・青子がいた。才蔵は無意識か天性の忍びの勘か、その渦中の姫を拾い上げ一気に渦の中心に躍り出る。
青子は、先夜自分を抱きよせて匂いを嗅いだ不思議な男に助け出され、初めての恋を覚える。抱き上げられた青子の表情はまさに恋する乙女のそれだ。隠岐殿の才蔵への執着は、隠密の首領としての勘か、それとも女心か。その両方を備えた「女の勘」というものかもしれない。お国の執着は女心のなせるわざと見える。だが才蔵の意味深な言葉が、単純な女心ではすまされない何かを感じさせる。ヒロインたちはそれぞれ、才蔵に何を見るのか。彼女たちと才蔵との今後の関わりが楽しみだ。
対して男たちは、才蔵に敵対的に振舞う。霧隠才蔵と知って敵意をむき出しにする獅子王院、才蔵をいいかげんなやつと言い捨てる佐助。才蔵を囲むこの2人の忍びの登場シーンは対照的だ。獅子王院は闇から現れて闇に消えていく。深夜の菊亭大納言家門前、徳永源兵衛への庭先での報告、堺の夜闇に潜む乞食。彼の内面を写し出すかように闇がつきまとう。闇に浮かぶ白い顔が不気味さを際立たせている。これに対して、蓮台寺の雪景色の庭先で才蔵を取り囲む甲賀衆と佐助。いつも闇の中に現れる獅子王院とは対照的にまぶしいくらいの白銀の中の登場。雪景色の庭に黒装束の忍群ってどーなんだとも思ってしまうが、その白と黒のコントラストが佐助のスタンス、誰はばかることない己の信念によって動く清廉潔白な男の姿をよく映し出している。その姿はまた才蔵に対して、答えを預けることを許さない佐助の無言の圧力ともなっていた。陰と陽の忍び、という言い方はおかしいかもしれないが、今はそういう表現しか思いつかない。才蔵は陰でもあり陽でもある。その3つの色がぶつかり合い、どのように変化していくのかも興味深い。
暗流はやがて、水面の大きな渦に飲み込まれ、多くの人々の運命を変えていく。
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第3回
第3回 影の群像(かげのぐんぞう) >>年表
黒谷光明寺を訪れた才蔵はとつぜん寺男に斬りつけられる。寺男をなんなく倒す才蔵。それを何者かが影から見つめる…。徳川の対大坂工作を司る俊岳の住まい・双ヶ岡黒屋敷に潜入する忍び。あっけなく捕らえられ、俊岳の前に引き出されたのは、くノ一姿のお国。彼女は俊岳が放った江戸方の間者であり、俊岳の実娘であったのだ。才蔵は石楠花寺を訪れる。そこにはかどわかされた青子がいた。己の置かれた状況がわかっているのかいないのか、才蔵と会えたことを無邪気に喜ぶ青子は、徳川から大奥の上臈として江戸に下るように迫られていると語るのだった。翌朝、その庭に現れた俊岳は才蔵の腕を買いたいと言い、才蔵は己に高値をつける。関ヶ原の戦い以来の豊臣・徳川の緊張が高まってきていた。佐助は京の牢人たちに金を配り内意を含めて廻る。そして江戸方からもらった報酬で遊女屋で興じる才蔵を再度大坂方へ誘う。翌朝遊女屋を出た二人は河原へ。昨夜の遊興費が江戸方から出た金だと知り、まずい顔をする佐助だが、身を浄めればよいという才蔵の言葉に素直に従い二人は川に入る。才蔵は「忍びに忠義は不要、技だけでこの世を渡るのだ」といい、そんな才蔵を佐助は「世を相手に気ままに遊び呆けている」と思うのだった。
【スタッフ】 原作:司馬遼太郎「風神の門」「城塞」/脚本:金子成人 /音楽:池辺晋一郎 /演奏:東京コンサーツ /監修:御正伸 /殺陣:國井正廣 /題字:藤沢昌子 /語り:長谷川勝彦アナウンサー /茶道指導:西原暉子 /主題歌「時間差」/唄:クリスタルキング /作詞:阿里そのみ /作曲:池辺晋一郎 /制作:村上慧 /技術:白石健二 /美術:越智和夫 /効果:久保光男 /照明:宮本省二 /音声:永井孝夫 /カメラ:曽我部宣明 /記録:久松伊織 /演出:渡辺紘史
【出演】 霧隠才蔵:三浦浩一 /お国:小野みゆき /獅子王院:磯部勉 /青子:樋口可南子 /孫八:北見治一 /本多左門:殿山泰司 /徳永源兵衛:今井健二 /米川監物:大塚周夫 /萩野:折原啓子 /中井主馬:冷泉公裕 /猿飛佐助:渡辺篤史 /遊女:太田淑子,火野捷子 /お国の母:篠崎彩 /7歳のお国:堀越恵里子 /子供:清水康晴 /赤犬:井上茂 /:草薙良一 /いたち:中川明 /甲賀者:加藤精三 /遊女:鰐石鈴子,鳥井美英子,若狭麻都佳 /町人:山田博行 /娘:小林紀美子 /侍女:香山エリ,中西由香里 /鳳プロ /若駒 /八星プロ /大納言晴季:岩井半四郎 /俊岳:佐藤慶 /隠岐殿:多岐川裕美 /真田幸村:竹脇無我
蛇足
今回までが登場人物紹介といったところか。メインキャストの最後の一人、俊岳が登場する。その威厳ある所作に物語に一気に重厚さが加えられる。3人の忍びにかかわる俊岳は「忍びは毒」と知りつつ、というより知り尽くしてそれぞれの毒をうまく操る。さすがは戦国大名。演出がうまい。自ら腕を斬り付けるところとか、獅子王院を感激させちゃうところとか。そのシブさに若い忍びたちはコロっとダマされる。俊岳の登場で物語に深みが加わりますます目が離せなくなるわけだが、実は、黒谷光明寺で「おそい!」と才蔵に怒鳴られて、素直に「すまん」と謝る徳永源兵衛がツボだったりもする。
この回では俊岳を横軸にして、4人の忍びの生き様や観念が描かれている。お国が徳川の間者であり、俊岳の実娘であることが明かされる。前回才蔵が言い当てた「寂しげな瞳」の訳が彼女の身の上にあることがわかるわけだ。佐助や獅子王院の役割も明らかになってくる。そして豊臣徳川の戦いに己の人生を賭け、すでに走り出しているお国、佐助、獅子王院を追って才蔵がスタートラインにつく。
がしかし、今回の目玉は、才蔵と佐助の「禊ぎ」。「大根かぶりつき」という意見もあるかもしれないが、まあ聞いてほしい。年表を作って気がついたのだが、あのシーンは旧暦1月、新暦3月の冬の京都! 心臓麻痺を起こしても不思議じゃない。ちょっと調べてみた。平成17年/2005年3月の京都の最低気温は-1〜10℃。近5年の鴨川の水温は、3月のデータがなく2月のデータであるが、5〜9℃。3月はもう少し上がるだろうから10℃前後か。ちなみにプールの水温は22℃が目安らしい。温水プールだと30℃前後である。才蔵たちが川に入ったのはまだ朝早い時間だから、気温も水温もかなり低いはずだ。加えて晴れた朝はさらに温度が下がる。まさに「武士でもなければ人でもない」(by晴海)。そんな状況での「禊ぎ」なら身も心もさぞ清められたことだろう。才蔵に言われて単純に従う佐助がまたツボである。
「影の群像」というだけあって、才蔵がけっこうかっこいいセリフをバンバン言っているのだが、行動が奔放で童のようなので、その効果も半減。しかしそれもこれも無意識にやってるのが才蔵という男の魅力なのだろう。走りはじめた才蔵。4人の忍びは距離を変え、位置を変えながら、どこへ向かうのか。
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第4回
第4回 風雲胎動(ふううんたいどう) >>年表
佐助から報告を受けた隠岐殿は、才蔵を色で落せと命じる。その才蔵は江戸方から後藤又兵衛ら京の牢人を斬るよう指令を受けるが、又兵衛の人柄に好意をもち、逆に又兵衛を討ちに来た侍たちを蹴散らしてしまう。そんな才蔵にお国は自分を抱いてくれを申し出る。代わりに大坂に味方せよと。才蔵は驚き「俺は色では動かん」と告げるのだった。牢人斬りを断った才蔵に俊岳は隠岐殿暗殺を命じる。驚き悩む才蔵。才蔵は紅葉屋敷に潜入するが、お国がその前に立ちふさがる。その頃、徳川方は本多正純中井正清藤堂高虎らを使い、謀略と戦の準備を進めていた。そして再建中の方広寺が焼失。隠岐殿は増田盛次治作らと会し、牢人集めを急ぎ、幸村を大将にと説く。その数日後、隠岐殿の招きで青連院の茶会に向かった青子は、大坂方にどこかへ連れ去られてしまうのだった。
【スタッフ】 原作:司馬遼太郎「風神の門」「城塞」/脚本:金子成人 /音楽:池辺晋一郎 /演奏:東京コンサーツ /監修:御正伸 /殺陣:岡本隆 /題字:藤沢昌子 /語り:長谷川勝彦アナウンサー /茶道指導:西原暉子 /ラテン語指導:L・カンガス /主題歌「時間差」/唄:クリスタルキング /作詞:阿里そのみ /作曲:池辺晋一郎 /制作:村上慧 /技術:三村三三郎 /美術:冨樫直人 /効果:柏原宣一 /照明:高橋猛 /音声:宮下謙佐 /カメラ:飯田孟司 /記録:久松伊織 /演出:岡本憙侑
【出演】 霧隠才蔵:三浦浩一 /お国:小野みゆき /獅子王院:磯部勉 /青子:樋口可南子 /孫八:北見治一 /菊千代:小野ヤスシ /板倉勝重:寺田農 /東田市之介:辻萬長 /中井主馬:冷泉公裕 /増田盛次:伊藤高 /猿飛佐助:渡辺篤史 /治作:稲葉義男 /後藤又兵衛:大木実 /梅ケ枝:亜湖 /桂木:岡本茉利 /信乃:政岡愛子 /八重:村田知嘉子 /小若:五十嵐知子 /百舌:水森コウ太 /寺男:三川雄三 /:小田島隆 /:佐藤友弘 /:千葉清次郎 /雲雀:加藤斉孝 /若駒 /竜企画 /早川プロ /劇団いろは /大納言晴季:岩井半四郎 /俊岳:佐藤慶 /隠岐殿:多岐川裕美 /真田幸村:竹脇無我 /※三太:保原洋一(クレジットなし)
蛇足
才蔵のポジションが決まった。決まったのだが、暗殺を請け負った又兵衛を気に入ってしまい、仕事をほったらかす才蔵。「牢人斬りは性にあわん」とか「どうでもいい相手は斬りたくない」とかいってますが、どうでもいい相手に暗殺者をむけたりしないって。
才蔵と又兵衛はよく似ている。又兵衛も人におもねることをしない。その迎合(あど)を打つことのない性格ゆえ、主家を追われることとなり奉公構えまで受ける。その結果京の六条河原で牢人暮らしをすることになっても一向に気に病む様子もない。それどころか衣食住よりも茶道に血道を上げ、佐助がもたらす金子も茶道具に化けてしまう始末。そんな又兵衛だから才蔵はすぐに又兵衛を気に入ってしまった。隠岐殿暗殺を依頼された心中を、会って間もない又兵衛に吐露するほどだ。それを聞いた又兵衛の言葉がまた又兵衛らしい。俊岳は才蔵の扱い方を間違った。又兵衛のように接すれば才蔵は俊岳に従ったかもしれない。その後も才蔵と又兵衛の交流は続く。家康暗殺行から戻った才蔵は大坂に発つ又兵衛をわざわざ見送っている。よほど又兵衛が気に入ったようだ。そして夏の陣で又兵衛の死を知った才蔵は、大坂首脳陣のエゴイズムを激しく非難する。又兵衛は才蔵が大きく影響を受ける英雄の一人だ。
そしてもう一人、才蔵がやがて意識する相手が行動を起こす。お国だ。お国が才蔵に身を捧げ、大坂に味方せよといった本心はどこにあるのか。前回、俊岳に対して「才蔵は役に立つ男」とはっきり述べているところから、お国は才蔵を江戸方につかせたいと思っていた。だから色で大坂に寝返られると困る。才蔵から直に「色では動かない」とは聞いているが、あの才蔵のことだ、ことと次第によってはどうなるかわからない。それで、どうなった場合も俊岳の都合のいいように謀るため自ら買って出た、というところではないか。もっとも、これらのことを論理的に考えて行動しているとは思わない。この時点でのお国の才蔵に対する感情はまだ「気になる」程度だろう。がしかし、この感情がお国を動かしている割合は意外に大きいように思う。お国自身はこの2つの感情があることを理解はしているが、自らの行動がどの感情に基づいているのかはわからないのではないか。
その彼女の行動に対して、才蔵は「哀れ」と口にした。その言葉にお国は激しく反応する。お国はもともと平凡な娘だ。それが戦国の世の数奇な運命の元に生まれ、非凡な人生を歩まざるをえなかった。務めがつらいと泣きながらも、それを全うすることでしか己の存在価値を見いだせない。しかし平凡ゆえに任務に徹しきれない。偽りの仮面を被り、仕えるのは親のかたき。しかしその女主人は聡明で美しく、お国を魅了する。親のかたきと知りながらいつか、その人を恨みきれなくなる日がくることをお国は恐れている。気丈な外見とはうらはらに、一人になるとそのジレンマに苦悶し、涙を流す娘なのだ。才蔵が現れなくても、遠からず破局していただろう。才蔵ははからずもお国の胸奥を衝いてしまった。お国は気色ばみ、「これが隠岐殿なら…」と精一杯の強がりを言い、「哀れみは無用」と本音が口をついて出る。
才蔵はいつも、的確にお国の胸低にしまったものを見つけてさらけ出す。彼は無意識にお国を解き放とうとする。それは魂の共鳴なのか。そしてお国も、この異質な男に、とまどいながらも惹かれはじめていく。
そしてまた、青子も才蔵によって運命を変えさせられる。あこがれとも恋ともつかぬ想いが青子の中に生まれていた。青子にとって才蔵は風。風は留まらない。時々吹いてきて青子の心をくすぐる。青子は、風に乗って舞う蒲公英の綿毛を追いかける童女のように、才蔵を追いかけることになる。そして、才蔵とは全く違うもう一人の男と出会うことになるのだ。
徳川はさまざまな謀をめぐらし、少しずつ豊臣包囲網を狭め、京にも異変が起き始める。いち早くそれを察した隠岐殿は牢人集めを急ぐ。風雲が、才蔵の頭上にもかかりはじめる。
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第5回
第5回 大坂暮色(おおさかぼしょく) >>年表
才蔵は「」で青子隠岐殿が大坂に向かったらしいことを知る。京の町は方広寺焼失の一件以来ざわめきたっていた。牢人たちが反徳川にまとまるのを恐れた俊岳は、才蔵を呼び出し真田幸村暗殺を命じる。「九郎判官義経に匹敵する真田幸村」と聞き、才蔵の胸は高鳴る。一方、獅子王院は才蔵を重く用いる俊岳に焦りを感じ「己を使ってくれ」と訴えるのだった。大坂に戻った隠岐殿は、明石掃部氏家内膳正らに会い内意をはかる。才蔵は大坂城に潜入し青子を連れ出そうとするが、獅子王院に止められ、青子の口から才蔵が幸村を狙っていることが隠岐殿らに知れてしまう。そして、才蔵を包む風雲は高野街道を紀州九度山に向う―。
【スタッフ】 原作:司馬遼太郎「風神の門」「城塞」/脚本:金子成人 /音楽:池辺晋一郎 /演奏:東京コンサーツ /監修:御正伸 /殺陣:國井正廣 /題字:藤沢昌子 /語り:長谷川勝彦アナウンサー /茶道指導:西原暉子 /主題歌「時間差」/唄:クリスタルキング /作詞:阿里そのみ /作曲:池辺晋一郎 /制作:村上慧 /技術:白石健二 /美術:宮井市太郎 /効果:浜口淳二 /照明:宮本省二 /音声:永井孝夫 /カメラ:曽我部宣明 /記録:久松伊織 /演出:小林平八郎
【出演】 霧隠才蔵:三浦浩一 /お国:小野みゆき /獅子王院:磯部勉 /青子:樋口可南子 /孫八:北見治一 /菊千代:小野ヤスシ /徳永源兵衛:今井健二 /東田市之介:辻萬長 /八重:村田知嘉子 /信乃:政岡愛子 /小若:五十嵐知子 /猿飛佐助:渡辺篤史 /左門:殿山泰司 /治作:稲葉義男 /明石掃部:竜崎勝 /:勝田武 /船頭:橋口忠夫 /組頭:加地健太郎 /牢人:小池幸次 /侍:山中康司 /番士:下坂泰雄 /牢人:沖田弘二 /伊賀者:関本晴,山本龍二 /遊女:白浜裕子 /若駒 /近代座 /劇団ひまわり /八星プロ /大納言晴季:岩井半四郎 /俊岳:佐藤慶 /隠岐殿:多岐川裕美 /真田幸村:竹脇無我
蛇足
大坂の陣は、家臣である徳川氏が主家である豊臣氏を滅ぼそうとする戦である。しかし不忠の誹りを恐れる徳川氏は、なんとか豊臣氏から仕掛けさせようと謀略を巡らす。戦さは、水面下で既に始まっているのだ。
方広寺が焼失し、洛中では牢人たちが騒ぎ始める。所司代・板倉の意図は、方広寺再建にさらに大坂城の金銀を使わせることにあったが、俊岳はその騒ぎが反徳川へとまとまるのを懸念する。それらを、今は牢人である、名だたる武将が統率すれば豊臣氏の大きな戦力となりかねないからだ。俊岳としては、金も人も無駄にせず、それらの武将を除かなくてはならない。
俊岳は才蔵に真田幸村の暗殺を命じる。これまでの言動から、才蔵は正攻法では動かせないと知った俊岳は、源義経を引き合いに出して幸村暗殺を促す。まんまとプライドを揺さぶられた才蔵は俊岳の依頼を引き受ける。しかしこれが結局は才蔵と幸村を出会わせることとなる。そしてさらに才蔵は、俊岳の想定の斜め上を行く行動に出るわけだが。
俊岳と別れた才蔵を獅子王院が追う。そして獅子王院の出自が少しだけ明らかになる。「名字もない家の小倅」、彼はそこからのし上がり、ゆくゆくは「政の一角に加わる」という野望を持っていた。そのため、才蔵への俊岳からの指令を聞いて愕然とする。上忍の才蔵が下忍の彼の手柄を奪っていく。身分が低いために舐めさせられてきた辛酸が蘇る。それは獅子王院には堪えがたい屈辱であるはずだ。いったんは俊岳の甘い言葉になだめられるが、才蔵を重用する俊岳を獅子王院は苦々しく思う。俊岳にうまく利用されていることに彼が気づいたかどうか、黙して得物を研ぐ姿からは知れない。
そして、大坂城に2人の女と2人の男が入った─、の前に、佐助だ。大坂に現れた才蔵となぜか仲良く屋根の上に寝転がり、なにやら菓子をポリポリ(笑)。とても敵対関係にあるようにはみえない。才蔵は幸村の情報を得ようとカマをかけているのだが、佐助はあろうことか、その才蔵を幸村に会わせようと必死に説得をはじめる。なんとも微笑ましいではないか。このシーンから、佐助は才蔵がすごく好きなんだなあとひしひしと感じるのだ。人を疑うということが得意ではないのかもしれない。それで忍びが務まるのか、佐助。でもそこが佐助のいいところなのだ。ホント、いいヤツ、惚れるね。2人は夕日に染まる大坂城天守閣を見上げる。そして大坂城内修理屋敷でも、隠岐殿とお国が同じ天守閣を見つめていた。このシーンは第22回の屋根の上の才蔵と佐助、その後の幸村の死を悼む修理屋敷の4人のシーンにつながる明暗のシーンだ。
で、大坂城、青子。要するに誘拐されてきたわけだが、普段とまったく変わりがない青子。海が見たいと天守閣に登りたがり、才蔵や獅子王院にねだる。「私を天守閣へ」と頼む青子に獅子王院の「今は困る」という返事もヘンだけど、「連れて行ってやれ」という才蔵もヘン。そのまま連れ去られたらどうするんだ。しかしこのふたつの返答はある意味、今後の展開を暗示しているとも思える。だって「今は困る」って答えはあきらかにヘンだし。(しつこい)
己の運命(さだめ)に迷う女と運命を変えようとする男。どちらも光を渇望しているように見える。そして己の思うままに振る舞い、屈託のない男と女。やがて、光と闇が交差していく─。
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第6回
第6回 暗殺街道(あんさつかいどう) >>年表
高野街道に、紀州九度山に向かう隠岐殿一行、獅子王院、そして才蔵の姿があった。才蔵は街道を外れ、人の通らない間道を進むうちに盗賊に出会い、その隠れ家で囚われのお国を見つける。棟梁を倒し、その子分・耳次の家で一夜を過ごした才蔵とお国は、翌朝耳次を連れて紀見峠を目指す。途中、ちらちらと現れる山伏に素知らぬ振りをしながら才蔵は進む。やがて足をくじいてしまったお国のために3人は樵小屋へ。才蔵は耳次を偵察に出す。第2夜を樵小屋ですごす2人。才蔵は火のついた炭を放り投げ、お国の反応を試す。そしてすべてが策略であろうとお国にせまったその時、瀕死の耳次が戻り、小屋が佐助たちに囲まれたことを知った。隙をついて小屋を脱出するお国。爆発する樵小屋。佐助は隠岐殿に才蔵の死を報告する。しかしお国は才蔵の死が信じられなかった。佐助たちが去った後、爆破された樵小屋の廃屋が盛り上がり、才蔵と耳次が這い出してきた。才蔵は生きていたのだ。その頃、大坂城青子はついに天守閣に登り、初めて見る海に歓声を上げていた。隠岐殿は九度山の真田屋敷に迎えられる。戦になるだろうかと問う隠岐殿に幸村は「家康の寿命が尽きるのを待つのだ」と説く。深夜、真田屋敷に潜入する才蔵。暗がりの中で捕らえた女はお国。すべてが策略ではなかったと訴えるお国。才蔵が去った後そっと涙が流れた。そして幸村を捜す才蔵は、屋敷内の小屋に人影を見つけ─。
【スタッフ】 原作:司馬遼太郎「風神の門」「城塞」/脚本:金子成人 /音楽:池辺晋一郎 /演奏:東京コンサーツ /監修:御正伸 /殺陣:國井正廣 /題字:藤沢昌子 /語り:長谷川勝彦アナウンサー /主題歌「時間差」/唄:クリスタルキング /作詞:阿里そのみ /作曲:池辺晋一郎 /制作:村上慧 /技術:三村三三郎 /美術:越智和夫 /効果:久保光男 /照明:高橋猛 /音声:宮下謙佐 /カメラ:飯田孟司 /記録:久松伊織 /演出:渡辺紘史
【出演】 霧隠才蔵:三浦浩一 /お国:小野みゆき /獅子王院:磯部勉 /青子:樋口可南子 /孫八:北見治一 /菊千代:小野ヤスシ /板倉勝重:寺田農 /東田市之介:辻萬長 /信乃:政岡愛子 /八重:村田知嘉子 /あざみ:えりかわ恵子 /侍女:野川愛 /猿飛佐助:渡辺篤史 /耳次:峰のぼる /お雪:国谷扶美子 /棟梁:兼松隆 /義十:広田正光 /百舌:水森コウ太 /番士:垂木勉 /:小田島隆 /雲雀:加藤斉孝 /:佐藤友弘 /:千葉清次郎 /若駒 /鳳プロ /大納言晴季:岩井半四郎 /俊岳:佐藤慶 /隠岐殿:多岐川裕美 /真田幸村:竹脇無我
蛇足
いやー、盗賊の棟梁、鶴瓶師匠かと思いました。
才蔵って、とりあえず出会った女はくどいとけってスタンス?  というか、無意識なんだよね。天性の女たらしめ。
今回、豊臣×徳川はお休み。といっても佐助×獅子王院、才蔵×佐助の戦いがあったりするが、なんといってもエロい才蔵とフォーリンラブ・お国。
――降りしきる雨。耳次の家へ急ぐ3人。ふと立ち止まる才蔵。自らの羽織を蓑笠代わりにしている。その才蔵に追いつき立ち止まり、不思議そうに見上げるお国に才蔵はささやく─「中へ」。とまどうお国にさらにささやく才蔵、「さあ」。その腕をとって羽織の中へ。そして走り出す2人――。
これやられたら、隠岐殿でも落ちるんじゃないだろうか。ましてお国は…。
一度ならず刃を向けた相手なのに躊躇なく己の懐へ招き入れる才蔵に、お国の心は惑う。前回、獅子王院よりもたらされた俊岳の伝言は、私情に流されそうになるお国を任務に引き戻した。御陵で助けられたお国の表情からは、本来の己の役目に立ち返ろうとする様子が伺える。しかし無情な雨は、そんなお国の努力もいっしょに洗い流してしまう。才蔵は笑顔で手を差し伸べたり、やさしくケガの手当をしたり、親のことを尋ねたり…。そんな才蔵の意味深な態度に、お国の中にさざ波が立つ。そして才蔵の火葬の炎を見たとき、心を焼かれるような想いがお国を襲ったに違いない。そしてあらためて、才蔵に恋してしまった自分に気づき、その恋が死んでしまったことに涙し、また、そうではなかったけれども、この結実困難な、しかも禁忌ともいえる恋に落ちてしまった自分をどうすることもできず、また、涙を落とす─。暗い!暗すぎる!! 過去・現在、そして未来までも暗いじゃないか!なんて不器用なんだ。そんなコンボでスパイラルな不幸体質、なんとかしろ!お国!  …でも、お国も一生懸命幸せになろうとしてるんだよね。しかし傍から見てると空回りというか、ネガティブというか(溜息)。当の才蔵はそんなこと知っちゃーいない。幸村のことで頭がいっぱい。ほんと罪作りだよ、あんたは。
    非常ベルが鳴り続けている 心の中ではじめから
    あの人にマジになってゆく やばい恋                    (やばい恋/中島みゆき)
そして才蔵と幸村の邂逅。お国のやばい恋はこの邂逅ののち、お国をどこへ連れて行くのだろう。
そのお国と違って、晴天のごとくポジティブな青子。才蔵や獅子王院に断られたのもなんのその、とうとう天守閣へ上り詰め、待望の海を目にする。青子は誰の手も借りず望みを果たした。その意味するところはなんだろう。
それは青子の強さ。何事にもまっすぐに立ち向かうことのできる心の強さだ。公家の姫という狭い世界に生まれ、政治の道具として弄ばれながらも、青子は決してくさることがない。その心は何者にも縛られず、無垢で自由だ。青子はその強い心で自分の運命を見据え、一人で歩いていくことのできる娘なのだ。お国とは真逆なヒロイン。彼女の見つめる先は、行き着く先は、いったいどこだろう。
才蔵と幸村の邂逅は、お国や青子のみならず、彼らに関わる人々の運命を変える波濤を呼ぶのか。今はまだ、才蔵の背後で松濤が騒ぐのみ─。
最後に一言、烏カッコイイよ烏!
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第7回
第7回 九度山慕情(くどやまぼじょう) >>年表
小屋の中の人影は幸村だった。しかし醍醐を作っているという幸村のおだやかな表情に、しばし自分の使命を忘れ作り方をおそわってしまう才蔵。幸村はそんな才蔵を客分として迎えるといい、佐助はあっけにとられる。郎党たちの素朴な暮らし振りは、才蔵に俊岳の言葉を疑わせる。幸村は「何人も人に支配されず、押さえつけられることのない世の中になればよい」と語った。翌日、山遊びに出かける幸村たち。才蔵は隠岐殿に花を摘む。しかし隠岐殿の幸村を見つめる瞳は、才蔵には向けられたことのないものだった。才蔵は激しい嫉妬を覚え幸村に挑むが、村の子ども三太に追いかけられて肥溜めに落ちてしまう。さらに獅子王院が現れ、幸村を討てずにいる才蔵を責める。そんな折り、大坂より隠岐殿を呼び戻す使者が九度山にやって来る。幸村と別れがたい隠岐殿。才蔵を置いていくことを渋る佐助。才蔵が心配なお国。それぞれの想いを胸に隠岐殿一行は山を下りる。一人残された才蔵は、なんとか幸村に剣をとらせようとするがうまくいかない。それでも才蔵は「幸村などいつでも斬れる!」とひとり気を吐くのだった。
【スタッフ】 原作:司馬遼太郎「風神の門」「城塞」/脚本:金子成人 /音楽:池辺晋一郎 /演奏:東京コンサーツ /監修:御正伸 /殺陣:國井正廣 /題字:藤沢昌子 /語り:長谷川勝彦アナウンサー /主題歌「時間差」/唄:クリスタルキング /作詞:阿里そのみ /作曲:池辺晋一郎 /制作:村上慧 /技術:白石健二 /美術:冨樫直人 /効果:柏原宣一 /照明:宮本省二 /音声:永井孝夫 /カメラ:曽我部宣明 /記録:久松伊織 /演出:小林平八郎
【出演】 霧隠才蔵:三浦浩一 /お国:小野みゆき /獅子王院:磯部勉 /青子:樋口可南子 /孫八:北見治一 /穴山小助:森川正太 /東田市之介:辻萬長 /信乃:政岡愛子 /猿飛佐助:渡辺篤史 /三好晴海:団しん也 /百舌:水森コウ太 /:小田島隆 /村人:柳谷寛 /八重:村田知嘉子 /若駒 /早川プロ /女中:堀川和栄 /俊岳:佐藤慶 /隠岐殿:多岐川裕美 /真田幸村:竹脇無我 /※三太:保原洋一(クレジットなし)
蛇足
海は凪いでいた。そこに、竜巻乱入。
才蔵が真田屋敷に見いだした幸村には、俊岳の云うようなオーラはまったくなかった。思わずスルー、思わず醍醐大好きモードになってしまう才蔵。君は無駄にオーラ発しすぎだよ。そして主と同じように、真田屋敷も才蔵の想像とは違ってのんびりムード。才蔵を見張る甲賀衆もいまいち身が入らず、佐助ばかりが気を吐いている。幸村が父とともに九度山に流されて十余年。打倒家康を胸に秘めてはいても、都を離れた山の暮らしが何年も続けばオーラも削がれよう。人との交流もなく、もちろん無禄で、自ら田畑を耕し、収入といえば甲賀衆が諜報の傍ら商う真田紐のみ。上田の真田本家にもたびたび無心をしていたようだし。真田屋敷の気の抜けた様子もさもありなん。
とはいいながらも、凪いだ海の水面下では魚たちが活発に泳ぎ回っている。オーラ皆無でも、幸村はしっかり世情を掌握していた。1600年に漂着した三浦(ウィリアム)按針やヤン・ヨーステンは家康に取り入り、イスパニア(スペイン)やポルトガルの宣教師たちを追い落とそうとしていた。その宣教師たちもまた、按針たちを危険人物として処罰させようと躍起になっている。そして家康はその双方を値踏みし、徳川政権のために利用している。幸村は、そうして作られる窮屈な世を危惧していた。
そうした幸村の言葉に対して、いちいちアヤをつける才蔵。どうも幸村と隠岐殿が仲睦まじくしているのが気に入らないらしい。そこで幸村はハイキングに行こうと提案。翌日、才蔵は「なんでわざわざ!」などと言いながら、いちばん嬉しそうにはしゃいでいた。まんまと幸村の権謀術数にハマったか。お釈迦様と孫悟空、かぐや姫と求婚者たち(ん?)。お国は、隠岐殿しか目に入らない才蔵にちょっとおもしろくない顔。それでもなにやら花を摘んでいる才蔵に近づいていく。そんなお国の気持ちも知らずに、忍冬を見つけた才蔵は隠岐殿へまっしぐら。そして撃沈。嫉妬にまかせて幸村に挑むも肥溜めへ嵌入。さらに獅子王院のダメ出しに逆ギレ。もう、何しに来てるんですか、あなたは…。
たしかに幸村を見つめる隠岐殿は艶容だ。その艶美な風情は、忍冬というよりも満開に開いた牡丹、百華の王を称するのがふさわしいだろう。忍冬がふさわしいのはむしろお国の方だ。要するに隠岐殿は、才蔵の前では女としての本当の姿を現していなかったということだ。勝ち目なし。お釈迦様と孫…。
─ふて寝して溜め息ついて。あきらめて真面目に任務遂行かと思いきや、隠岐殿の名を出して幸村に返り討ち。カッコワルイゾ、才蔵。ホントに何しに来てんだか。幸村の前では才蔵も竜巻というより井蛙。勢いよく海に飛び込んだはいいが、方向を見失ってしまった。海は、表面的には静かで、風雲渦巻く天をただただ見つめるがごとく凪いでいる。海に飛び込んだ蛙は途方に暮れる。
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第8回
第8回 変身居士(へんしんこじ) >>年表
慶長18年夏、才蔵九度山に一ヶ月以上も逗留していた。その間も世の中は動いている。そしてその動きは刻々と真田屋敷に伝えられた。京で宗教行政を担当している金地院崇伝駿府へ向かった。家康の外交顧問ウィリアム按針は、おなじく家康の側近である豪商・今井宗薫茶屋四郎次郎などと密談を重ねている。真田屋敷を訪れた治作は言う「堺の豊臣贔屓の商人も不安に感じて趣旨変えする者もでてきている…」。大坂も加賀前田家などを味方につけようと画策するがうまくいかない。俊岳獅子王院の報告から隠岐殿が「時期」を待っていることを知る。そして6月18日、徳川幕府は公家衆法度を発した。それは、徳川家が公家だけでなく帝の上にあるのだということを公けに宣言するものであった。幸村の中に焦燥感が募る。そして幸村は山に隠れた。好機と後を追う才蔵。しかし幸村を討つ機会をうかがっていた才蔵は目を疑う。そこには、あのおだやかな幸村からは想像もできない、荒ぶる魂を持て余し獣のように嵐の山を彷徨う幸村がいた。幸村の魂の叫びは才蔵を貫いた。山から戻った幸村は才蔵に語る「自分がどれだけ働けるか試したい。世に問うてみたい」と。才蔵は思わず叫んだ「俺を使うてみんか!」。そして幸村は、才蔵と佐助に家康暗殺を委ねた。山を下りた才蔵と佐助は大坂城大野修理と対面する。そして何者かに青子を奪われたと知る。青子は、獅子王院によって黒屋敷に移されていた。京に戻ると、いっしょに山を下りた耳次お雪の夫婦が分銅屋で出迎えた。さっそく黒屋敷から青子を奪還し、一時遊女屋に隠す。そして才蔵も「時期」を待つ。幸村のいう「時期」は翌年まで待たねばならない。
【スタッフ】 原作:司馬遼太郎「風神の門」「城塞」/脚本:金子成人 /音楽:池辺晋一郎 /演奏:東京コンサーツ /監修:御正伸 /殺陣:岡本隆 /題字:藤沢昌子 /語り:長谷川勝彦アナウンサー /主題歌「時間差」/唄:クリスタルキング /作詞:阿里そのみ /作曲:池辺晋一郎 /制作:村上慧 /技術:三村三三郎 /美術:宮井市太郎 /効果:浜口淳二 /照明:高橋猛 /音声:宮下謙佐 /カメラ:飯田孟司 /記録:久松伊織 /演出:渡辺紘史
【出演】 霧隠才蔵:三浦浩一 /お国:小野みゆき /獅子王院:磯部勉 /青子:樋口可南子 /孫八:北見治一 /菊千代:小野ヤスシ /板倉勝重:寺田農 /徳永源兵衛:今井健二 /東田市之介:辻萬長 /萩野:折原啓子 /猿飛佐助:渡辺篤史 /治作:稲葉義男 /真田昌幸:宮口精二 /梅ケ枝:亜湖 /信乃:政岡愛子 /穴山小助:森川正太 /三好晴海入道:団しん也 /耳次:峰のぼる /あざみ:えりかわ恵子 /お雪:国谷扶美子 /甲賀者:勝野勝 /赤犬:井上茂 /三太:保原洋一 /若駒 /八星プロ /大野修理:伊丹十三 /俊岳:佐藤慶 /大納言晴季:岩井半四郎 /隠岐殿:多岐川裕美 /真田幸村:竹脇無我
蛇足
才蔵の心は叫んでいた。「あれは誰だ?  あれは幸村なのか?  あの凪いだ海のようだった男なのか?  いや、あれは荒れ狂う海だ。風神を伴い、雷神を従わせ、すべてを破壊し、混沌へ落とそうとする鬼神だ」  そして才蔵の足はすくむ。「あれが、俺の斬ろうとした男か? 俺に斬れるのか? 俺にあの首が取れるのか…」
歴史が動き始めている。家康は権謀術数にたけた金地院崇伝を駿府へ呼び寄せ、豊臣家への謀計をめぐらす。またウィリアム按針や堺の今井宗薫、京の茶屋四郎次郎などが集まり、武器弾薬や食料などの流通を操作しようとしている。一方豊臣家は、加賀前田家を頼みとして通じようと画策するが、前田家はすでに豊臣家を見限り、徳川家についていた。そしてついに、徳川幕府は「公家衆法度」を発布する。いまだかつて、武家が公家を規定する法令を発布した例はない。幸村は天子をも恐れぬ所行に顔を曇らせ、佐助たちは驚きを隠せない。しかし才蔵は「わかりきったこと」と鼻で嗤う。
幸村は、徳川の黒い雲が大坂を覆い始めるのを感じる。しかし、自分はそういった世の中の動きから遠ざけられ、遙か山遠い里に忘れ去られている。十有余年の九度山暮らしを幸村はどのように過ごしてきたのか。山羊を飼い、醍醐を作り、三太と畑を耕す。安穏な暮らしは、絶望、諦念、あるいは悟りにも似た気持ちを幸村にもたらすこともあり、また逆に返って幸村を苛立たせたことだろう。父の無念を晴らすこともできず、むざむざと老いさらばえていくのかと、時折募る焦燥感を押さきれなくなると、幸村は山へ隠った。岩漿のように煮えたぎる心を解放すると、幸村はまた安穏な暮らしと心に戻る。そのような暮らしを続けていくうちに、心が萎えてしまわなかったのだろうか。
「男の欲」が、幸村の中にあった。その欲を満たす時だけをただひたすら、幸村は待ち続けてきたのだ。その欲と、緊迫する情勢と、そして不意に現れた若く荒々しい魂を持った才蔵が、幸村を触発した。幸村の心は騒ぐ。しかし今は時期尚早だ。幸村は心を静めるために山に入る。まるで幸村の心を知るかのように、高野山を嵐が襲う──。
その、羅刹のような幸村を目の当たりにし、才蔵は度肝を抜かれる。「この男はなんなのだ?!」 まるで仏のごとく、声を荒らげることさえなかった幸村の変貌ぶりに、才蔵は恐れさえも抱いたかもしれない。この男の魂は俺と同じだ。何かを成し遂げたいともがいている。才蔵は、幸村の内に秘められた燃えたぎる血潮を見た。幸村の怒り、焦り、苦しみ、哀しみ。幸村の鬼気迫る有様に才蔵は圧倒される。自分が小さく見えた。自分は何も見えていなかった。仏の顔の下にこんなにも荒々しい魂が隠れていたなど、まったく気づきもしなかった。才蔵は己の甘さ、未熟さを知り、奈落へ突き落とされる思いを味わった。こんなに大きな男がいるのか。この男の心が知りたい。そしてその心を知ったとき、才蔵は損得を越えて、幸村の側に付くことを決意する。
変身居士。変身したのは幸村ではなく、才蔵だったのではないか。それは佐助の言う通り「幸村に惚れた」と言っていいだろう。しかし才蔵は否定する。お国に対してもはぐらかしている。認めたくないのか、シャイなのか。それでも才蔵は、ようやく自分のいるべき場所、なすべきことを見つけた。霧隠才蔵が天下に躍り出る時を見つけたのだ。
才蔵と青子は、鉄砲狭間(てっぽうざま)に見立てた障子を挟んで、お互いの瞳に海を見る。その海は広大で青く、きらきらと輝いていた──。


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