今様(いまよう)
今様歌(いまよう-うた)の略。平安中期に起こり鎌倉時代にかけて流行した新しい歌謡。 影法師が残していく短冊に書かれていた。いわく、
ゆきかあられか おおみやの (雪かあられか大宮の)
つきのみやいの わびずまい (月の宮居のわびずまい)
よをうしとすむ かげぼうし (世を憂しと住む影法師)
うしやうし ようもうし うたうもうし (憂しや憂し 酔うも憂し うたうも憂し)
こうるもうしや かげぼうし (恋うるも憂しや影法師)
この今様の短冊が洛中で評判となり、 信乃や 青子がほしがった。歌の意味は、青子曰く「(雪かあられか〜わびずまい)これはまあよい。(世を憂しと〜)影法師は思うままにならぬこの世の無常をつらい思いで生きている。(憂しや憂し〜)酔うも無常、歌うも無常。(恋うるも〜)好いたお人がいるのに思うままにならぬのがつらいということじゃ」( #17)
今様の意味は「当世風」。前代に対する新興歌謡を指した。七五調または八五調四句の歌が多いが、短歌形式や不整形式など様々なかたちがある。後白河法皇がよく愛し「梁塵秘抄」(りょうじんひしょう)を編纂した。現代では単に七五調(八五調)四句の歌を指して「今様歌」と呼ぶようだ。
影法師の短冊の今様歌は「憂しの影法師」。意味は、月の光をあびて都大路をそぞろ歩きをしている者が、どこまでもついてくる自分の影が憂鬱であるとなげいているのである。歌うても憂鬱であるし、恋をしても憂鬱である、というかるい厭世の気分の歌。(原作)
「憂しの影法師」は第三句が七五調からはずれており破調になっている。誰もがよくしっている七五調四句の今様歌をひとつ引用してみよう。
ほたるのひかり まどのゆき
ふみよむつきひ かさねつつ
いつしかとしも すぎのとを
あけてぞけさは わかれゆく
そう、「蛍の光」である。ほかにも「いろは歌」「お正月」「北の宿から」「青春時代」「あヽ人生に涙あり(水戸黄門の主題歌)」「にっぽん昔ばなし(まんが日本昔話の主題歌)」などがあり、今様歌が身のまわりにあふれていることに気がつく。
「憂しの影法師」は司馬遼太郎作だろうか。原作に登場する才蔵が作ったのなら納得いくが、劇中の才蔵が作ったとはちょっと信じがたい。服部の御曹司は実は高学歴か。それでも書道は苦手だったらしい。佐助いわく「このへたくそな字ぃ見ればわかるぞ」、菊千代いわく「もうちょっと字がうまけりゃなあ」。散々に云われている。ちなみにニセ影法師が書いた短冊はもっとヘタだった。「才蔵の字もヘタですが、これはもっとひどいもんで…、これは字というよりは絵といった方が…、どっから読んでいいかわかりません」佐助、飛ばし過ぎ(渡辺篤史、アドリブか? 小野みゆきにかなりウケている)。劇中、青子がこの歌に節をつけて謡っている。邦楽指導・杵屋正邦(きねや-せいほう)が作曲したものか。青子の歌もさることながら、朗々と謡い上げる板倉の美声に驚いた。
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